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仙台家庭裁判所 昭和31年(家)1154号 審判 1956年9月11日

申立人 中谷美恵子(仮名)

相手方 中谷純一(仮名)

主文

相手方は、なるべく速かに申立人と同居し、二児の監護養育等につき互に協力し扶助し合うこと。

相手方は、申立人に対し右同居に至るまで、申立人及び長女菊子の生活費の一部として昭和三十一年九月より毎月金千円宛を毎月末日限り申立人の現住所に送金又は持参して支払うこと。

理由

申立人は、相手方は申立人を呼寄せ速かに同居を履行すること、若し同居義務を履行しない場合は、長男明を引取らしめ、二児の養育費として月々金五千円の支払を求める旨の審判を求め、その申立の実情として

申立人美恵子は相手方純一と昭和二十五年○月○○日事実上の婚姻をなし夫婦の間に一男一女を儲けた。申立人は結婚以来相手方に協力扶助し幸福な円満な夫婦生活を営むこと昭和二十九年迄四年間、夜の目も寝ずに百姓仕事をして働くという努力をつづけた。ところが、昭和二十八年○月○○日長女菊子分娩後間もなく四ヵ月にて腹膜炎と医者の診断が下り鉄道病院に昭和二十九年二月入院し昭和二十九年九月退院、七ヵ月間に亘る病院生活も空しく終りを告げ退院以来実家に寄食療養している次第であるが、しかし申立人が病気療養中入院しているのに拘らず夫純一は一ヵ月一回位見舞に来る程度でその治療費も入院費も小遣も又親として菊子を監護する費用すら一銭も与えなかつた。申立人は病気回復して相手方の所に帰家したいと隣家の有志五、六人に依頼したが、姑は、嫁は戻しませんと依頼の効果なくその後昭和三十年六月から十月迄相手方の同居の要求に対して申立人実家の空家を借り同居生活四ヵ月にしてその後相手方は自家に戻り申立人は実父母の厄介になり、別居の生活を営み申立人としては途方に暮れている、その後また数回に及び相手方の側に帰りたいと人に依頼しても今となつては戻すわけにはいかないといい、相手方の姑は、嫁は気に入らないので絶対に戻しは致しませんと横暴をいい、しかし相手方は申立人に対し法律上離婚したわけではないから、姑の心持が冷静になる迄は戻しませんからもう少しの時期を待つてくれという話である。しかし、申立人には、かわいい男児の明があるので一日も早く相手方の家に戻りたく子供と共に同棲し、円満なる夫婦関係を営まんがため同居義務の履行を求めたく、若し同居義務を履行しない場合は、長男明を引取らしめ、二児の養育費として月々金五千円の支払を求める次第である。

と述べた。

相手方は、申立人と同居する意思は充分あるが借財整理等の経済的事情から現在のところその実行は不可能であると述べた。

当裁判所は、申立人本人、相手方本人、相手方の父中谷清次を審問した。

よつて按ずるに、右各審問の結果を綜合し、記録中の中谷純一の戸籍謄本、家庭裁判所調査官時○○雄の調査報告書及び相手方勤務先○○機関区の区長作成にかかる相手方の給与調査回答書の各記載を参照すれば、

一、申立人と相手方とは昭和二十五年○月○○日頃より相手方宅において同棲生活に入り、同年○月○○日婚姻届出を了し、両者間に昭和二十六年○月○○日長男明が、又昭和二十八年○月○○日長女菊子が夫々出生した事実

二、申立人は、右長女菊子分娩後間もなく腹膜炎で入院し昭和二十九年九月退院したが、退院以来、同人の実家にて療養をつづけていたため相手方と別居の状態にあつたところ、昭和三十年五月頃より同年十月頃迄の間、同人の実家の空家を借りて相手方と長女菊子とともに(長男明は相手方の実家に残したまま)同棲生活をつづけたが同年十月申立人が姙娠中絶して以来その実家に戻つたため、相手方も同人の実家に戻り、そのため再び別居するに至り、現在、長女菊子とともに申立人の実家で生活している事実

三、相手方は、申立人と結婚後、長男明が出生する頃から外泊が多くなり借財も重なり、現在もなお借財が三十万円位残つておるため、月々の給料をもつてその返済に充てておる状況で、申立人と同居して独立の生計を立てる見込が立たず、経済的自立ができないため、相手方の実家においてその実父母に依存しつつ、長男明とともに生活しており、又、相手方の実母は、申立人と折合がよくない等の事情もあつて、申立人を相手方宅に呼寄せかねている事実

四、又、相手方は、昭和十四年頃より国鉄に奉職し昭和二十一年十月一日頃より○○機関区に勤務して現在に至つており、現に、本俸は一六、五〇〇円で妻である申立人と二児の家族手当が一、六〇〇円、その合計の一割が地域手当で、それに諸手当を加えると二万円程度にはなるが、互助会の貸付返済とか借金等に差引かれると、月々の手取は平均一万円前後にしかならず、しかも、現在、その月々の給料の殆んど全部を借財の返済に充てている事実を認めることができる。

以上の各事実を綜合すれば、相手方は、申立人と現在直ちに同居して生計を立てることは借財整理等の関係から困難な事情にあることは推察するに難くないのであるが、しかし、申立人と夫婦である以上、速かに同居に困難なる事情を打開して、申立人と同居し、二児の監護養育等につき互に協力し扶助し合う義務ありといわなければならない。又右同居に至るまで、申立人と、申立人が現に養育している長女菊子の生活費を負担する義務ありといわなければならないのであるが、その負担額について考えてみるのに、申立人は、長男明をも自分のもとに引取り、二児の養育費として毎月五千円宛の支払を求める旨希望しているので、この点につき考えてみるのに、申立人が長男明を引き取りたいと希望している心持は、母親としての愛情から誠に尤もであるけれども、長男明は現に相手方の実家で養育されており、しかも相手方も同児の父親として申立人と共同して同児に対し親権を行使し得る立場にある以上、両親の間に協議が成立すればともかく、相手方の意思に反してまで、右長男の引き取りを求めることは、少くとも現段階においては相当でないと判断されるし、又、申立人は現在その実家で実父母、祖母、実兄姉とともに生活しており、その生活状態もさまで急迫した状況にあるような様子も認められない反面、相手方は、現在その給料の殆んど全部を借財整理に充てており、経済的にも余裕のない状況が認められるので、その双方の生活状況を彼此参酌するとき、相手方は、申立人に対し、相手方勤務先から支給される月々の給与のうち、妻である申立人と長女菊子の家族手当として支給されている金千円は、これを申立人及び長女菊子の生活費の一部として申立人宅に送金又は持参して支払うことが相当であると判断する。

以上の理由をもつて主文のとおり審判する。

(家事裁判官 市村光一)

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